あの女の子

部活での彼女との接触が多かった。いつもより一緒に弓道できた。チームを組んでのリーグ戦。休憩時間中にチームや試合順を決めているときに、彼女と同じチームだったりしてな、なんてぼんやり考えていた。休憩が終わりチームが発表された。それは僕をとてもひるませた。まさかぼんやりと妄想していた世界がその瞬間から実現していくとは、世紀の大預言者でも驚くであろうできごとだ。「僕が有頂天になる」ぐらいの予想は、部活仲間からすれば簡単なものであったろう。当の僕は「世にも奇妙な物語」世界にいつの間にやら投げ込まれてしまったのではないかと少しにやけながら疑っていた。偶然とするにも神様のはからいとするにも大して意味は変わらない。じゃあ僕自身が導いた幸福なのか。まるでハルヒじゃないか、ばかばかしい。しかし、まだ青臭さとか童貞臭さが依然として抜けきっていない僕は、「自分神様論」を頭の片隅に追いやって邪険にしているくせに結局とっておいている。もしかしたら、いやそんなはずはないけれど、願望を自分で叶えた、のか。一歩間違えたら精神状態だけ中学生に逆戻りしかねない考えを巡らしながら悶々としていると、彼女が僕の名前をつぶやいているのが聞こえた。つぶやいていると言っても独り言ではなく彼女の友人かつ部員の女子に向かってである。言っておくが、彼女はぶつぶつと社会契約論や非コミュ論をつぶやくような子ではない。わずかに天然の気があるから、ちょっぴり変なことを口走ってしまい赤面することはありうる。だが、いや、何を脱線しているんだ。妄想はほどほどにしないといざ彼女を目の前にしたとき僕のほうが変なことを口走ってしまいそうだ。それはともかく、名前をつぶやいていたのを聞いたとき、僕は、自分で断言しきるのはなぜか嫌だが、嬉しくなった。何についてかは分からないが彼女が僕を気にしてくれている。普段あまり人と接触しない僕が誰かに、それも好きな子に気にされる。喜びを感じるのは自然な流れだ。うん、自然だ。自然であるが、さびしくもある。ふと感じてしまった不思議さと嬉しさと寂しさを抱えて、リーグ戦に参じた。彼女と、一年生二人と、僕の四人。二人でなく四人チーム。彼女と二人というシチュエーションを想像するともどかしくなったり不安になったりうきうきしたりする。二人きりは怖い。でも二人きりになりたい。どうにも矛盾する感情を抑えながら試合をする。試合の合間に彼女とのほんの少しの、そして当たり障りのない語らいを楽しみながら、怖がりながら過ごして、試合が終わった。語らいの間には一年生二人がいたこともあった。ここでもまた期待や不安がごちゃごちゃになって寄せては返す。自分で自分がわからない。

試合はびりっけつ。しまいには校庭の隅にあるトイレ掃除まで任された。僕らのチームに。少し心がうずいた。彼女といつまでいられるのだろう。なるべく長くいたいものだと思った。


明日は練習試合。宿題は終わらない。学校はあさってから。切羽詰ってる。